• Sachi

時代への旅




先月、「ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス」の最終日に駆け込んだ。

広告を目にした瞬間から、観ることを確定させられたその展示はやはり好みであった。




その空間に入ると、なんだか空気が変わる。

さっきまでの電車と人混みの騒音が嘘だったかのように、しんと静まり、そこには人間と絵が向き合っているだけ。




数点観たのち、ある一点に焦点が引きつけられ足が固まった。


目に映るのはクロード・モネの『散歩』だった。


奥には雲が浮かんでいて、澄んだ青空の下には広大な草原が広がっている。

遠くまで続く並木が、私をそちらに導いているようだった。

心地良い風が体を包み、足元の草花が揺れているのを感じた。

手前の婦人の表情まではわからないが、どんな顔をしているのだろうと想像するのが楽しくなる。




しばらく絵を見つめていると、ふと疑問に思った。

どうして人々は他人の絵を観に来るんだろう。

現実に戻り周りを見ると、たくさんの人が同じ空間で絵を観ている。

その状況が突然、不思議に思えたのだ。




美術館から帰ると、毎回のように疲労感を覚える。

一つ一つの作品を見つめすぎて、周りの人達はどんどん私を追い越していくのだ。

絵の中に取り残された私は、百年以上前の世界へタイムスリップしたまま戻ってこられない。

そんな長旅を終えると、足はひどく痛むし頭痛までも感じる。

でもそれは、楽しくてはしゃぎすぎた時間の後のように、癒しをもたらす疲れであった。




結局、なぜ人々は他人の絵を観に来るのか、その答えはわからなかった。答えはなくていいと思った。

ただ美しい物を観たいとか、好きな画家がいるとか、人それぞれあるのだろうけど、

私はその不思議な空間や、時の流れが好きだった。




近くで絵の具の立体感を見ると、100年以上前の画家たちの存在を感じる。

筆を持った彼らの手が滑らかに、そして力強く動いてる様子が全身に伝わる。

その感覚がなんとも言えない。


ずっと昔に描かれた絵がこうやって現代にまで繋がれて、たくさんの人の記憶に残る。

この小さな感動は、本物を見なければ味わえないもので、言葉に表現することは難しい。




絵画を観ると、画家たちの私生活を覗いている感覚になる。

周りにいた人々や環境、そして当時の服装までもが分かるから面白い。

歴史を軽く知っていたとしても、なかなか現代の生活からは想像しにくいものだ。

でも絵を観ると、自然と頭の中で昔の人々の生活風景が浮かんでくるのだ。



彼らの時代を生きてみたい。

私は毎回そう思う。


彼らはもういない。

だけど、絵画の中に住む人々や草花、太陽や風たちは永遠に生き続け、私たちを遠いどこかへ連れて行ってくれるだろう。



これからもっといろいろな時代へ旅ができると思うと、心がワクワクしてきた。




Sachi

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