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【偏愛】彼が私に刺したナイフは深い



「それはぼくの心臓ではなく それは僕の心に刺さった」

四角い画面の中には、黒い壁に覆われたライブハウスで、眩しいライトに照らされながら苦しそうに歌う彼の姿。

そしてそれは言葉通り、十四才だったわたしの心臓ではなく、心に刺さる。

【ザ・ハイロウズ 十四才】

https://youtu.be/Hu_w-0dwbBU

多分一生この人に恋をするんだと思う。

彼の書く詩は、遠慮がないのに優しい。彼の手が私の心臓まで入ってきて、ギュッと握り潰そうとする。それなのに、逃げたくなるときには誰よりも大きく両手を広げて抱きしめようとする。甲本ヒロトはそんな人間だった。偏愛というテーマを頂いたときに真っ先に彼のことが浮かんでしまったのだ。

彼は1985年に結成された、ザ・ブルーハーツのボーカリストだった。バンドブーム全盛期のど真ん中に立ち、大人への不満や威嚇、愛する人への優しくて強い想いを歌ったブルーハーツは、当時の若者や若者になりたい大人の心にズブズブに刺さった。ブルーハーツの解散後、ザ・ハイロウズのボーカリストとして歌い続け、それが解散すると次は、ザ・クロマニヨンズのボーカリストとして歌いはじめた。






22年も生きていると様々な経験をする。変わり続ける環境についていくことに必死になる。そんな経験から知識を得て、好きだったものを嫌いになったり、嫌いだった人を好きになる可能性もある。知らなかったことを知ったときに酷く驚いた経験が、自分の考え方の軸になったりする。変わり続ける常識と、新しく身に着けなくてはいけない知識や感情が莫大すぎるこの社会で、最早何が正解かは分からないし、言及するとカテゴリー分けをされる。そんなものに流されたりして生きていく道程で考え方が変わり続けるなか、絶対に変わらなかったのは甲本ヒロトの音楽が好きということだけだった。

はじめて彼の音楽に触れたのはとても単純なきっかけで、当時好きだった歌手がヒロトのファンだったのだ。何気なく、聴いてみようと思い検索をして一番上に出てきた曲を再生する。よく耳にしたことのあるメロディーだった。

「あぁ、このリンダリンダ〜って歌う人か。」心のなかで

期待値が少し下がる。一度彼の映像をチラッとみたことがあったが、身体をクネクネさせながら目を大きくあけて、歌詞と歌詞の間奏部分があれば飛び跳ねて舌を出す姿がまだ小学生の自分にはインパクトが強すぎて覚えていたのだ。そして、何故かいけないものを見た気がしてすぐに忘れた。何年か越しにまた出会うことになるとは…と半分義務感のような感じで見ていたら、聴いたことがない部分にさしかかった。



もしも僕がいつか君と 出会い話し合うなら

そんな時はどうか愛の 意味をしってください

激しくてうるさい音とは正反対の、優しすぎる歌詞に心臓が跳ねる。もう一度私と彼が出会うことが、彼には見え透いた未来であるかのようだった。この日、私は甲本ヒロトに恋をした。

【ザ・ブルーハーツ リンダリンダ】

https://youtu.be/s07bqXuXF9U

ツタヤへ行き、狂ったかのようにアルバムを片っ端から手に取る。パパの部屋にあるパソコンに曲を入れて、アイポットに入れて毎日聴いた。パパは「ブルーハーツに手出したか〜!」と言ったが、だから良いとか悪いとかは言わなかった。当時は、GreeeeNや西野カナが流行っていて、98年生まれで絶賛思春期の女子中学生がハマるには少し古いということは自分が一番良くわかっていたが、止められなかったのだ。





ヒロトの言葉は、私の青春時代を彩った。

お星さまお星さま 逃げません僕はもう

と歌った。中学時代に本気で好きだった15個上の先生へ、手紙を書いて渡す勇気をくれた。

どんな風に逃げようか 全ては幻と笑おうか

と歌った。一緒に住んでいる叔父が暴れる時は、解決方法が見当たらない事と何もできない自分に悔しい程涙が出て、そんな時にも優しい言葉で慰めてくれた。

永遠に君を愛せなくてもいいか 

例えば千年、千年じゃ足りないか

と歌った。当時流行っていた歌には、大好きなんだとか、一生の愛を誓うよみたいな台詞ばかりだった。そうじゃなくて、言い直す擽ったさが余計に愛を本物に見せた。そういうところが本当に好きでたまらなかった。

彼から吐き出される多くの言の葉は、花をもっと鮮やかに見せて、土の汚さも綺麗さも教えてくれる。風のにおいを感じさせて、沼に溺れそうになると力強く引っ張って私を救った。






偏愛というテーマのもと、改めて彼への愛を語ってみたけれど、まだまだ語り足りない。あと、ヒロトは自分の存在とか歌を語られるのは嫌いらしい。そういうところも私は好きだ。甲本ヒロトから生み出される音。言葉。表情。何度聴いても何度見てもそれらは色褪せることなく、初めて出会った衝撃をもう一度感じさせ、わたしは彼に恋をする。彼以外の何かにこんな愛し方をしたことはない。まさに、偏愛だ。




kaoruko








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